【クアラルンプール発】第5回 起業家インタビュー A TO Z Language Centre 経営者兼教師 西尾 亜希子さん

2025年02月28日

「日本語教師として日本とマレーシアを繋ぐ
A TO Z Language Centre 経営者兼教師
西尾 亜希子さん

 

 

起業家インタビュー第5回目はマレーシアで語学学校を設立し、経営をしながら教壇に立ち続け、日本語を教えることに情熱を注ぐ方のストーリーを取材・紹介してきます。

第5回 ゲスト:A TO Z Language Centre 経営者兼教師 西尾 亜希子さん

 

お名前

西尾 亜希子(にしお あきこ)さん

マレーシア在住歴

26年

現在のお仕事

語学学校経営(現在マレーシア国内で3校を運営。日本語、英語、中国語、マレー語の授業を提供)、日本語教師、日本語教師養成、日本留学サポート

趣味

面白いことならなんでも

好きな食べ物

マレーシアの好きな場所

コタキナバル

座右の銘

できない仕事は来ない

 

見たことがない世界を見るために日本語教師としてマレーシアへ

日本語の教師になろうと思ったきっかけを教えて下さい。

もともと教えること、人と関わることが好きで、子供の頃から国語も好きだったので、学校の先生になりたいとずっと思っていました。そして大学卒業前に、教員採用試験を受けるかどうかを悩んだのですが、当時は色々なことを経験して見たことがないものを見てみたいという気持ちが強くあり、学校の先生にはもっと人生経験を積んでからなろうと思ったので、その時は教員の道に進みませんでした。

そして、人に教えたい、人と関わりたい、国語が好き、海外に行きたい、という思いを合わせたら、日本語教師という職業にたどり着きました。最初は1~2年ほど日本語教師をやるつもりだったのですが、気づいたら25年以上も続けていました。

 

マレーシアに日本語教師として来た経緯を教えてください。

1999年に日本語教師育成講座を修了し、海外で働きたいという思いがあり、ちょうど中国と韓国、台湾、香港、マレーシアで日本語の非常勤講師として働く求人広告を見つけました。この5カ国の中で一度も行ったことがなく、想像もできなくて「面白そう!」と思ったのがマレーシアでした。

 

 

語学学校設立から経営難

語学学校を設立するまでの経緯を教えてください。

3年半非常勤講師としてマレーシアで働き、前の学校での契約更新のタイミングで、この先他の国で日本語教師をするか、それとも日本に戻って学校の先生になるか悩みました。いずれにしても一旦マレーシアは離れようと思い周りの人に伝えていたら、「自分で日本語学校をやらないか」という声をかけてくれた方がいました。その時の私は非常勤の日本語教師の経験しかなく、日本での社会人経験もなかったので、私にできるわけがないと思いお断りしました。しかし、断り方があまり上手ではなかったようで、気が付いたら書類に自分の名前が載っており、思いがけず語学学校を始めることになっていました。

これが私が語学学校を設立するまでの経緯だったのですが、今思い返すとそれまでの日本語教師としての経験の中で、語学学校での学習をより良くするために「私なら生徒さんのためにこうしたい」という気持ちを持っていたのかもしれません。

 

学校を経営していく中で、ピンチだなと感じた時はいつですか?

やはりコロナ禍が一番大変でした。
2020年から日本留学支援事業をさらに拡大しようと考えていたので、2019年に積極的に事業投資や人材の準備をしていました。2020年4月にはお金が戻ってくると見越してやっていたことが、新型コロナウイルス感染症のパンデミックが起き、その事業が完全に止まってしまいました。
2020年3月に活動制限令が発令され、対面での授業が不可能になりました。やれることは全部やろうという思いで、なんとか1日でオンライン授業ができる準備を整えました。そのときは誰も学校を辞めさせない、学校を潰さないということが一番の目標でした。

最初は教師も生徒さんもオンライン授業に慣れていなかったので、まずはお互いにお試しのような感じでした。徐々に教師がオンライン授業に慣れてきて、画面越しでもしっかりと学習してもらえるように授業の仕方を工夫していき、生徒さんもオンライン授業が受けやすくなるような環境を整えてくれました。生徒さんを含め、学校に関わるすべての方の協力のおかげでコロナ禍を乗り切ることができました。

また、コロナ禍以外でもマレーシアでは突然、法律や制度が変わるため、その変更についていくことは簡単ではありません。今まで許可が得られていたことが突然の制度の変更で受け入れられなくなることはよくあります。
このようなコロナ禍の突然のロックダウンや、国による急な方向転換などに柔軟に対応でき、乗り越えられるような体制を作っておくことが大切だと学びました。

 

学校運営をしながらも、今も教壇に立って日本語を教え続けているのはどうしてですか?

教えることが好きなんです。教師不足ということもありますが、教えることが純粋に好きだから、現場からは離れたくないという思いがあります。
毎回の授業で生徒さんからどんな答えが出てくるのかわからないし、教えたときにみんながどんな反応をするのかも毎回違うので、とても面白いです。しかし、あまり教えることだけに集中していると学校のマネジメントに割く時間が少なくなってしまうので、どちらもバランス良くやっていかなければいけません。

 

 

出会いやチャンスを提供できる語学学校を目指す

西尾さんが目指すのはどんな学校ですか?

「A to Z Language Centre を選んで良かった!」とみんなが思ってくれるような学校にしたいです。
最近は言語を学べる動画が無料で観られる時代になり、語学学校へ行かずにペラペラに話せるようになる人もいます。しかし、学校に来て他の生徒と一緒に学ぶ方が向いている人もいると思います。一緒に学ぶ仲間がいると、みんながいるから頑張ろうというモチベーション向上につながりますし、先生から細かいところまで見てもらえるので、語学学校の良さもあると思います。

また、AIの発達で言語を学ばずに機械を使って異なる言語でコミュニケーションが取れてしまう世の中になってきています。しかし、学んだ知識を自分の頭の中にいれ、その知識で人と話せたり、繋がれたりできたときの嬉しい、楽しいという思いは大切だと思っていて、だからこそこれからも言語を学ぶ人は減らないと思います。

この語学学校で私たちがやりたいことは、生徒さんたちが体験できるイベントを開催したり、それを通して人と人がつながるきっかけを作ったりすることです。これまでお祭りや茶道体験のイベントなどをしてきました。日本が好きという気持ちで日本語を勉強している生徒さんたちはモチベーションの維持が非常に難しくて、他に好きなものができたりすると学習を継続してもらうのが難しくなります。しかし、イベントに参加してもらうことで、まだ勉強が足りないな、楽しかったからもっと次につなげたいなど、生徒さんの学習意欲を高めることにも繋がります。

 

 

スピーチコンテストなどマレーシアと日本を繋ぐ活動に取り組んでいると伺ったのですが、その活動についても教えていただけますか?

コンテストは2種類行っていて、1つは日本語ビジネスプレゼンテーションコンテストです。
日系企業の方々から、日本語が話せる優秀な人材を確保したいけどそれがなかなか難しいという話をよく聞く一方で、日本語がかなり話せるけど、日本語を使って仕事をしていない人たちも多くいます。彼らが日本語を使う仕事をしない理由として、仕事で使えるだけの日本語力に自信がないという人が多くいるからだと思います。
このコンテストは、日本語を話せる人が趣味だけで終わらずに、日本語を仕事に生かすことも1つの選択肢にしてほしいという思いから、”仕事”というテーマで日本語でプレゼンテーションをするコンテストを始めました。

もう1つは日本語体験コンテストで、スポンサーの協力のもと、日本が好きな方たちを集めたスピーチコンテストもやっています。
学校の勉強だけではなく、イベントやコンテストを開催することで、生徒さんに何かのきっかけを作ってあげられたらと思っています。ただ言葉を教えるだけでなく、人と人のつながりを作って、出会いやチャンスの溢れる語学学校を目指しています。

 

 

日本語教師という職業とは?

マレーシアで日本語教師をする魅力はなんですか?

マレーシアの方は先生のことをとてもリスペクトする国民性があります。
また、勉強する習慣がある人たちが多く、宿題を出すとしっかりとやってきてくれますし、リピートしてくださいと言ったら、みんな楽しそうに大きな声でリピートしてくれます。授業中にクラスのみんなでゲームをしたら、盛り上がって一生懸命に取り組んでくれます。マレーシアで日本語を教えることの魅力は、生徒さんにとても恵まれることだと思います。

また、マレーシアだけでなく日本語を教えることの魅力としては、生徒さんたちの成長に関われることだと思います。
最初は日本語が全くできなかった生徒さんたちが週に1時間の授業を毎週受けていくうちにどんどん上手になっていきます。そして、全く話せなかった子たちが、3か月後にはこんなにも日本語が話せるようになるんだとその成長に立ち会えるのが、母心のように嬉しい気持ちになります。そして、その子たちが学校を修了して、日本へ留学に行ったり、日本語を使った仕事に就いたりと、この学校で勉強した日本語を生かして活躍している姿を見ると、この子たちの人生の一部に関われていたんだなと感じ日本語教師をしていて良かったと思います。これが日本語教師をする魅力であり、やりがいになっています。

 

日本語教師にとって一番大切なことはありますか?

日本語教師に一番大切だと思うことは、生徒さんの側に立って考えることだと思います。なんでこの生徒さんはこういう間違いをしたのかなと想像したり、生徒さんが何か言いたいことがあって一生懸命伝えようとしているときに、何が言いたいのかを汲み取ってあげられる力が大切です。

また、日本語教師がやるべきことは、日本語を外側から見て、外国語として日本語を分析することです。そのため、日本語教師は母語として日本語が話せればできるのではなく、日本語を外国語として見られる力が一番大事だと思います。

 

 

今後の目標、やってみたいことを教えてください。

A TO Z Language Centre では日本語教師養成講座を以前から行っているのですが、2024年から日本語教師が国家資格となり、”登録日本語教員”となりました。
今まで日本語養成講座は文化庁からの認可でやっていたのが文部科学省の認可となり、日本語教師というあり方も変わりましたし、教師をどう育てるかという仕組みも変わり始めています。

この変更を受けて、今私がやりたいことは、この語学学校を日本語教師になるために必要な実習研修ができる機関にすることです。
マレーシアで実習研修を行うことができるプログラムを作ることが今の目標です。
実は日本語教師を目指している人で海外経験がないという人が多くいます。そういう人たちが海外に数週間住んでみる経験をすることは、少しでも生徒の気持ちを知るためにとても大切なことだと思います。現在海外で実習ができる機関は無いので、マレーシアのこの語学学校が第1号となって海外でも実習研修ができるようにし、マレーシアからも優秀な日本語教師を多く輩出していきたいというのが今の目標です。

 

最後に日本語教師として新しい環境に挑戦しようとしている人、海外で仕事をしたいと考えている人にメッセージをお願いします。

海外に出たら、その国の人をリスペクトして、住まわせてもらっているという気持ちを大事にしてほしいと思います。
「日本ではこうだから」と押し付けるのではなく、その国のルールや文化を尊重してほしいです。そうすれば、日本の良さも再発見することができると思いますし、「思っていたより日本ってすごい!」ということに気づけると思います。
海外の良さと日本の良さを知るために勇気を出して、一度海外に来てみてほしいです!

 

 

 

【インタビュアー】

 

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